Branched Evolution

Competitive Programming in Python

強い位相,弱い位相

概要

位相が強くなると,

  1. 点列は収束しにくくなる
  2. 出ていく写像が連続になりやすく,入ってくる写像が連続になりにくくなる
  3. ハウスドルフになりやすくなる
  4. コンパクトになりにくくなる
  5. 可分になりにくくなる

位相の定義

集合 $X$ が与えられたとき,位相の定め方はいろいろあるが,ここでは以下で定義される開集合系 $\mathcal{O}$ のことを単に位相と呼ぶことにする.

$X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ が開集合系であるとは,次の $3$ 条件を満たすことをいう.

  1. $\phi \in \mathcal{O}$ かつ $X \in \mathcal{O}$
  2. $O _ {1}, O _ {2} \in \mathcal{O}$ ならば $O _ {1} \cap O _ {2} \in \mathcal{O}$
  3. $O _ {\lambda} \in \mathcal{O}\ (\lambda \in \Lambda)$ ならば $\bigcup _ {\lambda \in \Lambda} O _ {\lambda} \in \mathcal{O}$

$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,$\mathcal{O} _ {1}$ が定める位相よりも $\mathcal{O} _ {2}$ が定める位相の方が強い,という.

あらゆる集合に定まる最弱の位相は $\mathcal{O} = \{ \phi, X \}$ によって定まる位相で,これを密着位相という.

逆に,最強の位相は $X$ の部分集合全体を開集合系とする位相で,これを離散位相という.

点列の収束

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ において,$N \subset X$ が $x \in X$ の近傍であるとは,$x \in O \subset N$ なる開集合 $O \in \mathcal{O}$ が存在することをいう.

$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,$N$ が $\mathcal{O} _ {1}$ の意味で $x$ の近傍なら,$\mathcal{O} _ {2}$ の意味でも近傍である.

点列 $\{ x _ {n} \} \subset X$ が $x \in X$ に収束するとは,$x$ の任意の近傍 $N$ に対して,ある自然数 $n _ {0}$ が存在し,任意の $n \geq n _ {0}$ に対して $x _ {n} \in N$ となることをいう.

位相が強くなると,点列は収束しにくくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,点列 $\{ x _ {n} \}$ が $\mathcal{O} _ {2}$ の意味で $x$ に収束するならば,$\mathcal{O} _ {1}$ の意味でも収束する.

証明(クリックで展開) 点列 $\{ x _ {n} \}$ が $\mathcal{O} _ {2}$ の意味で $x$ に収束すると仮定する. $\mathcal{O} _ {1}$ の意味での $x$ の近傍 $N$ を任意にとると,$x \in O \subset N$ なる $O \in \mathcal{O} _ {1}$ がとれる.このとき $O \in \mathcal{O} _ {2}$ だから $N$ は $\mathcal{O} _ {2}$ の意味でも $x$ の近傍である.仮定より,ある自然数 $n _ {0}$ が存在し,任意の $n \geq n _ {0}$ に対して $x _ {n} \in N$ となるから,$\{ x _ {n} \}$ は $\mathcal{O} _ {1}$ の意味でも $x$ に収束する.

例えば,密着位相では,任意の点列が任意の点に収束する.実際,任意の点 $x$ の近傍は $X$ しかなく,任意の 点列 $\{ x _ {n} \}$ について任意の $n$ に対して $x _ {n} \in X$ だから,$\{ x _ n \}$ は $x$ に収束する.

逆に,離散位相では,$x$ の近傍として,一点集合 $\{ x \}$ をとることができるので,$x$ に収束する点列は,ある自然数 $n _ {0}$ が存在して任意の $n \geq n _ {0}$ に対して $x _ {n} = x$ となるようなものだけである.

写像の連続性

$2$ つの位相空間 $(X, \mathcal{O} _ {X})$ と $(Y, \mathcal{O} _ {Y})$ において,写像 $f \colon X \rightarrow Y$ が連続であるとは,任意の $O \in \mathcal{O} _ {Y}$ に対して,$f ^ {- 1} (O) \in \mathcal{O} _ {X}$ となることをいう.

まず,$Y$ の位相を固定して,$X$ の位相が強くなると,写像は連続になりやすくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {X, 1} \subset \mathcal{O} _ {X, 2}$ のとき,$f$ が $\mathcal{O} _ {X, 1}$ の意味で連続ならば,$\mathcal{O} _ {X, 2}$ の意味でも連続である.

逆に,$X$ の位相を固定して,$Y$ の位相が強くなると,写像は連続になりにくくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {Y, 1} \subset \mathcal{O} _ {Y, 2}$ のとき,$f$ が $\mathcal{O} _ {Y, 2}$ の意味で連続ならば,$\mathcal{O} _ {Y, 1}$ の意味でも連続である.

例えば,$\# X > 1$ として,恒等写像 $\mathrm{id} \colon X \rightarrow X$ を考えたとき,終域の $X$ には離散位相でも密着位相でもない位相を入れたとして,始域の $X$ に密着位相を入れると, $\mathrm{id}$ は連続ではないが,始域の $X$ に離散位相を入れると, $\mathrm{id}$ は連続になる.

ハウスドルフ性

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ がハウスドルフ空間であるとは,任意の $x, y \in X$ に対して,開集合 $A, B \in \mathcal{O}$ が存在して,$x \in A, y \in B$ とできることをいう.

位相が強くなると,ハウスドルフ空間になりやすくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,$X$ が $\mathcal{O} _ {1}$ の意味でハウスドルフ空間ならば,$\mathcal{O} _ {2}$ の意味でもハウスドルフ空間である.

例えば,$\# X > 1$ として,$X$ に密着位相を入れると,ハウスドルフ空間にならない.逆に離散位相を入れると,ハウスドルフ空間になる.

コンパクト性

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ において,$A \subset X$ がコンパクトであるとは,$A \subset \bigcup _ {\lambda \in \Lambda} O _ {\lambda}$ なる任意の $\{ O _ {\lambda} \} \subset \mathcal{O}$ に対して,ある $\lambda _ {1} , \ldots , \lambda _ {n} \in \Lambda$ が存在して,$A \subset O _ {\lambda _ {1}} \cup \cdots \cup O _ {\lambda _ {n}} $ が成り立つことをいう.

位相が強くなると,$A$ はコンパクトになりにくくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,$A$ が $\mathcal{O} _ {2}$ の意味でコンパクトならば,$\mathcal{O} _ {1}$ の意味でもコンパクトである.

例えば,$\# X > 1$ として,$X$ に密着位相を入れると,任意の $A \subset X$ はコンパクトである.逆に離散位相を入れると,$A$ が無限個の点をもつならば,$\Lambda = A, O _ {\lambda} = \{ a \}$ とすることで $A \subset \bigcup _ {\lambda \in \Lambda} O _ {\lambda}$ とできて,ここから有限個を取り出すことができないから,$A$ はコンパクトでない.

可算性

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が可分であるとは,$A \subset F$ なる閉集合 $F$ が $X$ だけになるような可算集合 $A \subset X$ が存在することをいう.

位相が強くなると,可算になりにくくなる.つまり,$\mathcal{O} _ {1} \subset \mathcal{O} _ {2}$ のとき,$X$ が $\mathcal{O} _ {2}$ の意味で可算ならば,$\mathcal{O} _ {1}$ の意味でも可算である.

証明(クリックで展開) $X$ が $\mathcal{O} _ {2}$ の意味で可算であると仮定する.$A \subset F$ なる $\mathcal{O} _ {2}$ の意味での閉集合 $F$ は $X$ だけであるような可算集合 $A \subset X$ をとる.$\mathcal{O} _ {1}$ の意味で閉集合なら $\mathcal{O} _ {2}$ の意味でも閉集合であるから,$A \subset F$ なる $\mathcal{O} _ {1}$ の意味での閉集合 $F$ も $X$ だけである.したがって,$X$ が $\mathcal{O} _ {1}$ の意味でも可算である.

例えば,$X$ が非可算集合であるとして,密着位相を入れると,$X$ は可分である.実際,任意の $x \in X$ に対して,$\{ x \} \subset F \subset X$ なる $F$ は $X$ だけである.逆に,離散位相を入れると,どんな可算集合 $A \subset X$ に対しても $A$ が閉集合なので,$X$ は可分でない.

参考

www.shokabo.co.jp